パンク・ロック・ラヴとは


アーロン・コメットバス「パンク・ロック・ラヴとは」(一九九二年)

パンク・ロック・ラヴとは、ライブ会場のすぐ近くにあるゴミ箱の物陰でファックすること。カールトン・ホテルでシャワーを浴びながらでファックすること。大型のリサイクル回収ボックスの中でファックすること。横で眠る彼女のタトゥーを見つめること。一緒にシャワーを浴びること。タバコの吸い殻でチェッカーをすること。彼女がバンドで演奏しているのを見ること。ゴミ捨て場で見つけた野菜を持ち帰り、ごちそうを作ること。同じ曲の同じ箇所を暗唱できること。同じ元彼女がいること。

パンク・ロック・ラヴとは、ひどく酔っぱらった彼女の靴ひもを結んでやること。陸橋の下でキスすること。送ってもらった彼女の日記を読むこと。誕生日にガムテープ十本をプレゼントされること。彼女がスキンヘッズとやりあうこと。彼女のバイクでプロムへと向かい、クロークにヘルメットを預けること。ゲイだと思われていたジョックスから、驚きのまなざしで見られること。あなたは年上のパンクガールとつるんでいるのに、彼らはいまだに友だちの妹なんかと遊んでいるからだ。

パンク・ロック・ラヴとは、ライブハウスの外で彼女と待ち合わせ、彼女に一緒に帰ろうと言われたり、ぶっとばすと言われること。そして、一緒に帰ったにもかかわらず、結局はぶっとばされること。ヘアダイをシェアすること。バイクにふたり乗りすること。何も気にせず大騒ぎすること。臆病なまなざしに袖無しのTシャツ。日が昇り、ビーチに他の人がいたのに気づくこと。だらしなくてたのしい一週間が続くこと。その後もほとんどの間は友だちでいること。

パンク・ロック・ラヴとは、あなたに会うために彼女が真夜中の公園をうろついていること。彼女のスパイクヘアの上に指を這わせること。花を食べたせいで舌が腫れたしまった彼女のために、中毒センターに電話すること。デートでコインランドリーに連れて行くこと。寝袋をシェアし、真夜中に凍えながら目を覚ますと、彼女がドライヤーで体を温めていること。こっぴどくふられた後に、ソーシャル・アンレストが「エヴァー・フォーレン・イン・ラブ?」を演奏するライブで、彼女に出くわしてしまうこと。その夜、ふたたびタバコを吸い始めること。

パンク・ロック・ラヴとは、彼女に抱き寄せられること。彼女があなたの背中に寄りかかって眠ること。まぬけになったと非難されること。あなたの悪臭を放つ髪の毛が自然と逆立っているのを見て、クールだと思われること。彼女に卵を崇め奉るような風変わりなルームメイトがいること。彼女が通り過ぎないかとドアの前で数時間も待っていること。たとえ雪の日であっても。深夜ラジオに流れてくるディセンデンツの曲にあわせて、彼女が歌うこと。朝刊の一面に逮捕された彼女の写真が載っていること。彼女にお気に入りの黒いハットを借し、けっして返してもらえないこと。

パンク・ロック・ラヴとは、あなたが飲むコーヒーと同じくらいに、よくお酒を飲む彼女に出会うこと。彼女が働いているカフェに入り、笑顔で迎えてくれる彼女が、目の前に積まれた五〇枚の皿を、今まさにひっくり返してしまおうとしていることに気づいていないこと。すべての皿が床に打ちつけられた後に、カフェじゅうの人たちから喝采を浴びて、ふたりで顔を真っ赤にすること。

パンク・ロック・ラヴとは、ふたりともファンジンを作っていること。数年後、彼女は大学の新入生に英語を教え、自分はいまだにファンジンを作っていること。眼鏡をかけていようが、彼女の瞳は申し分ない。クラッチを踏んでいようが、彼女の足は申し分ない。障害のあるようなしゃべり方も申し分ない。それはパンクガール特有のしゃべり方だと思っていた。後に意図的にそういった障害になるという症例があると教わるまでは。

パンク・ロック・ラヴとは、同じベッドで眠っている人を起こさないようにしながら、ファーストキスとほぼ同時にヴァージンを失うこと。フリーウェイのそばにある茂みの中でいちゃつきながら、後に通り過ぎていく車からは丸見えだったことに気づくこと。一緒に荒地を探検すること。非常口の外で手をつなぐこと。裏庭の芝生の上で寝っころがること。誕生日に軒先のポーチでテキーラを飲むこと。気温の低い朝に彼女のバイクに乗り、彼女にしっかりとつかまりながら、川から蒸気が立ち昇るのを眺めること。彼女はラモーンズよりもクールだと思うこと。

パンク・ロック・ラヴとは、ふたりとも文無しであること。数々のラブレターのやりとり。高校のタレントショーで彼女が「ステイ・フリー」を歌っているの姿を見ること。ついにベッドに入ったときに、想像を超えて彼女がいかれていることを発見すること。彼女のボーイフレンドを怒らせること。彼女と彼女の甥っ子と歩き回り、周囲から甥っ子が自分たちの子どもだと思われることで、不憫のまなざしを集めること。彼女と一緒に歩き回り、幸せで誇りに満ちた気分になること。一緒に悲しむこと。ひとりきりで悲しむこと。いなくなってしまった彼女を思いながら。

(おわり)

http://team-kathy.blogspot.jp/2011/01/blog-post_25.html より